貧乏ごっこしてた不倫御曹司を捨てた母の手術を控えたその日、夫――首都圏の御曹司である奥瀬晋司(おくせ しんじ)が、突然「地方へ出張だ」と言い出し、私と一緒に病院へ来られないと言った。
ところが次の瞬間、私は彼の初恋の人がインスタに投稿した動画を目にしてしまった。
動画の中で――普段は贅沢三昧の晋司が、その女と並んで空き瓶を拾っている。
キャプションには、こう添えられている。
【生活がどんなに苦しくても、旦那さんと一緒なら怖くない】
私は思わず笑ってしまい、すぐに【いいね】を押してコメントを書き込んだ。
【総資産二兆円超えの首都圏の御曹司が、女の子を助けて一緒に瓶拾いをするなんて……感動的ね】
――だが、そのコメントは瞬く間に削除された。
直後に電話が鳴り、受話器越しに冷たい声が響いた。
「芹生菜桜(せりう なお)、お前、あのコメントはどういうつもりだ?すぐにルナに説明しろ。冗談だったってな」
私は笑いながら言い放った。
「そっちで貧乏ごっこを楽しむのは勝手だけど、私を巻き込まないで」
そう言って、私は一方的に電話を切った。
――三日後、離婚届を提出しに行く。
私がいなくなれば、晋司は本物の貧乏人になれるわけだ。